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「ゼロから始めるのではなく、 すでに持っているものに イマジネーションの可能性 をみつける ことが大切です」BO BEDRE 2020年3月号

"2O2O: 新連載 小さな住まい"



建築家のMathias Mentzeが暮らす75m²の自宅は、コペンハーゲンのクリスチャンハウン地区にある。ここでパートナーであり同じく建築家のAlexander Vedel Ottenstenと

暮らしている。

触覚を楽しめるものや、驚きを与えてくれる

デザイン、そしてインテリアを飾るものなど、この小さな住まいの特徴はそれぞれのものの背景に物語があること。チェアはArne Jacobesenが1950年代の後半にSAS Royal Hotelのためデザインした3300シリーズ。三脚スツールは

フランス人のPierre Chapoのデザイン。ライスペーパーのランプは日本のIsamu Noguchiによるデザイン。







窓からクリスチャンハウン地区の歴史的な建物を見ることができる。向かい側の建物は静まり返った部屋を描いた作品で有名になったVilhelm Hammershøi(ヴィルヘルム・

ハマスホイ)が1898年から1909年まで暮らした住まいだった。Mathiasによると、Hammershøiが外の門もモチーフにた。Hammershøiが亡くなった11年後、フランスのデザイナー兼手芸家のPierre Chapoが生まれた。Mathiasが現在代理店を務めるダイニングテーブルや三脚椅子はChapoのデザインだ。

額に入れた手紙は2.2.1861というMathias の

友人でもあるアーティストDanh Voの作品。Danh Voと同様にMathiasもすでにある

素材やオブジェクトを取り入れながらアレンジすることで、新しい作品を誕生させるというスタイルをとっているが、Mathiasはそれを独自のやりかたで行っている。椅子は日系アメリカ人二世の家具職人兼設計者のGeorge Nakashimaの

デザイン。ペンシルベニア州に暮らすGeorgeの娘、Mira Nakashimaから購入した。


Mathias Mentzeはクリスチャンハウンの自宅マンションの前で私たちを迎えてくれた。古い建物の門に入るとすぐ、彼はこの建物の歴史を語り始める。この建物は穀物用の倉庫として1733年に建てられ、1970年代に住宅用に全面的にリフォームされた。長い年月の中で様々な素材やスタイルが用いられた。家の中に入ると、歴史的な通りであるStrandgadeとSankt Annæ Gadeが窓から見える。100年遡れば、この住まいからVilhelm Hammershøiが向かい側の建物の門を描く様子を見ることができたかもしれない。Hammershøiは、1898年から1909年までこの家の隣で暮らしながら、世界中から高く評価される静まりかえった室内を描いていたのだ。Mathiasは知識が 豊富で、歴史、アートや文化には特に詳しい。説明には、面白い逸話や知識、 自らの見解が組み込まれている。空間をデザインするときも同じように様々な要因を組み合わせるようだ。

「私は建築の典型的なやり方に携わったわけではありません。むしろ芸術的な方法で建築にアプローチしています。建築大学の私の教授は景観設計家のSteen Høyerでした。彼は私にとって大きなインスピレーションの源です。空間とは、いくつかの点で結ばれているところだというのが彼の考え方です。こうした点というのは一本の木やなだらかな坂、ソファ、テーブル、壁といった具体的なものである一方、背景、歴史や関係性という経験的知識に基づいたことも含まれる可能性があります」とMathiasは説明する。

「私は空間についてこう考えます。空間は、すべてが同じ時代のもので、すべてが相互に機能し合うべきというモダニズムを理想とする世界ではありません。例えばこのようなマンションに古代ギリシアの柱を付けるなどといったすべてのことが可能で、すべてが無意味な商品カタログ、というポストモダニズム的な考え方でもない。ある場所にすでに存在している思い出や歴史をできるだけ引き出すという想いで空間づくりに取り組んでいます」

Mathiasの仕事に対するスタンスの具体例を紹介しよう。彼は双子の兄Nikolaj Lorentz Mentzeと一緒に、C.L Davidからデンマーク政府に譲られ、現在デンマーク首相官邸になっているMarienborg(マリンボー)の インテリアの責任を負う役目を務めたことがある。

「作業中、私たちは棚の中に古いテーブルクロスを見つけました。 C.L.Davidのイニシャルが刺繍されていて質も良く、とても素敵だと思っていたのですが、使い古しだったので使うことができず、テキスタイル デザイナーのLine Sanderに譲ることにしました。彼女はMarienborgの公園にある植物を使ってそのテーブルクロスを染め、彼女のキルト作品の素材として使いました。かつて、アメリカの入植者たちは使い古した服や布を使ってキルトを作っていました。伝統的なキルトでは古い素材を使って、新しいものを作っていたのです。つまり、伝統を守っていること、使用される場所で発見されたものであること、公園の植物で染めてあるため、使用される場所特有のものであること、古いものを処分する代わりにもう一度使用されるということなど、Lineのキルトには様々な意味がこめられているのです。これは、私が取り組んでいる作業と同じ。私はいつもゼロからのスタートよりもすでに目の前にあるものの中にイマジネーションの可能性を見つけようとします。他の人だったら、新しい毛布を買ってそれで終わりだったかもしれません」

物語があふれるようなMathiasの自宅には、インテリアやデザイン、空間についての本人の考え方が反映されている。建物自体には、1733年や1970年などの建築スタイルが取り入れられている。家具やオブジェ、アート作品、小物など、インテリアで使われているものはすべて素材、手芸、コンテクスト、そこに暮らす二人の生活との関連性、ものとの組み合わせから、複数の情報の層があるようにみえる。訪れる人は感覚を直感的に刺激され、複数の意味を持つように見える物たちに興味津々になるだろう。この住まいでは会話がすぐに弾む。天井はそれほど高くなく、75 m²という面積よりもやや小さく感じるが、この狭いスペースの中には大きな世界が広がっている。




花瓶か作品?この二つのオブジェはスウェーデン出身のHilda Hellströmが作ったもので、Mathiasに贈られた。Hilda Hellströmはコペンハーゲンに在住し、そこで活動している。デザインギャラリーのEtage Projectsでは彼女の作品が取り扱われている。

壁の作品はカリフォルニア州在住のアーティストBrian Calvinの作品。椅子はスウェーデン出身のAxel

Einar Hjorthによるデザイン。Berger Stoolと呼ばれる小さなスツールは、Charlotte Perriandによる

デザイン。

玄関はワーキングスペースになっている。コペンハーゲンの広場の一つKongens Nytorvで粗大ゴミに出されていたPoul Kjærholmデザインの古いテーブルを拾い、きれいにして使っている。陶芸はフランスの陶芸家Georges Jouveによる作品。これもまた掘り出し物。Jouveの作品はとても高価だが、Mathiasがアンティークショップでこの二つの花瓶を見つけた際、店長がその価値に気づいていなかったようで、手ごろな価格で譲ってもらった。テーブルの上にはアーティストのEbbe Stub Wittrupの作品を。彼は現在、Copenhagen ContemporaryにてBotanical Driftという展示会を開催中。小さな石にも面白い裏話がある。石を拾った海岸は、デザイナーのCharlotte Perriand(シャルロット・ペリアン)がインスピレーション受けた海沿いの海岸で、彼女が長年コラボレーションしていたLe Corbusier(ル・コルビュジエ)が1965年海水浴中に心臓発作を起こして溺れた海岸でもある。


「大切なのは、

目の前の場所に流れる

歴史を感じ取って、

その良さを活かし、

表現することです」


















白黒写真はMathiasの友人でニューヨーク在住の写真家David Armstrongが撮ったもの。ライトはMathias が兄Nikolajとともにインテリアを手がけたMarienborgのために、アーティストのFosがデザインしたもの。ベッドカバーはアメリカのアンティークキルト。テキスタイルデザイナーのLine Sanderが見つけた。

本棚はアートやデザイン、建築関連の本や小説であふれている。



<BO BEDRE 2020年3月号>

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