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「ストックホルムに再現されたアイコニックな606号室 」BO BEDRE 9月号2020

"det ikoniske værelse 606 genskabt i Stockholm"



Patric Öhlundがストックホルムにある自身のアパートに再現したのは、コペンハーゲンのSASロイヤルホテルにあるArne Jacobsenのアイコニックな606号室。熱心なArneJacobsenデザインのファンでいることに加え、インテリアにも驚きの効果を持たせる目的があったので、彼はこの一貫性ある部屋に一切妥協を許さなかった。現代のスウェーデンのデザイン住宅で、デンマークの有名なこの建築家がどのように再認識されたのか、ここにご覧いただこう。







文 MATHILDE RUDE 写真 MIKEY ESTRADA




SASロイヤルホテルのように、Patric Öhlundとその恋人 Elisabeth Lundbergのリビングには素晴らしい眺めがある。Patricに言わせると、海とストックホルムの街並みが見える分こちらの方が良い、そうである。ArneJacobsenの建物は今日、デンマークのモダニズム建築の傑作とされており、他の建物とのコントラストは当時としては素晴らしく、ここの眺めのように、写真を圧倒する別の建物スタイルがあった。ストックホルムのSödermalm地区にあるアパートで、Patric ÖhlundとElisabeth Lundbergのカップルは、コペンハーゲンのSASロイヤルホテルにあるArne Jacobsenのアイコニックな606号室を再現。Patricは長い時間をかけて、スウェーデン版のDBA(フリマサイト)であるBlocket、蚤の市や粗大ゴミ、オークションを通じて、本物の部屋と同じ要素や家具を見つけた。 lauritz.comではArne Jacobsenのエッグチェアをホテルと同じ色のオリジナルカバーで見つけたのだが、このことがリビングを606号室に変身させるスタートの合図となった。ホテルのためにArne JacobsenがデザインしたAJフロアランプも、 Patricはlauritz.comで見つけた。



ローズウッドは絶滅危惧種で入手することは難しいのだが、Patricは中古で見つけることに成功し、窓の下のパネルを設置することができた。Arne JacobsenはSASロイヤルホテルのためにエッグチェアとスワンチェア、フロアランプを有するAJシリーズ、ローズウッド製コーヒーテーブルのモデル3515をデザインした。 Patricがそれらのオリジナルの家具を、良い状態かつオリジナルの色で見つけるのには長い時間がかかったが、少しずつlauritz.comで購入することに成功した。606号室を真似るという考えだったので、このカップルはたくさんの色を試し、ぴったりのものをFarrow & Ball社で探し当てた。キャンドルホルダーは Arne JacobsenがGeorg Jensen社のためにデザインしたもので、Blocketで見つかった。



よく知らないひとなら、ストックホルムにあるこのアパートを訪れたとき、ここが1960年に完成したSASロイヤルホテルのArne Jacobsenのアイコニックな部屋だと思うかもしれない。幾度ものリノベーションを経て今現在606号室は、唯一本来の姿を残す部屋であり、建築的な宝石として建築とデザインを愛する世界中の人々が長い間、ここで一夜を過ごすために喜んで大金を支払ってきた。現在はミュージアムになっているため、もう泊まることは叶わない。けれど、自分で作ることはできる。もしあなたに想像力が、そして情熱があればだが。 Patric Öhlundにはそれがあった。彼は恋人ElisabethLundbergと一緒に住む、Södermalm地区にある同じく1960年築造のアパートにこの部屋を再現した。

彼らは一緒に、フレンチビストロとスウェーデンの洋菓子屋をブレンドしたベーカリー Kafé KringlanをÖstermalm地区で経営する。こだわりを持つことは彼らの日常の一部で、自分たちでアパートの内装を手がけ、デザインすることもその精神から来ている。実はこの注目を集める606号室を作ることになったのは、少し偶然だったという。


「606号室のよく似たレプリカを私たちのアパートに作ることになったのは、ここを購入した後、レイアウトがあの素晴らしい部屋を彷彿とさせ、景色に至ってはさらに良いということを面白がったからなんです。その数日後に 、まさにあのSASロイヤルブルーの色をしたエッグチェアのオリジナルを見つけて、自分の606号室を作らなければと感じました。さらに面白いのが、今年ホテルが60周年記念を迎えるということです。だから、これは私たちからの賛辞だと思っています」とPatricは語る。

真の総合芸術の精神で、Arne Jacobsenはホテル、伝説的な椅子のデザインであるスワンチェアやエッグチェア、ドアノブ、カトラリー、カーテン留めの小さなボールに至るまで、設計・デザインした。それはまさしく一貫したデザイン要素であり、Patricが Arne Jacobsenの古いホテルを愛する由縁なのだ。家具のやわらかな形や窓や部屋の縁との間にコントラストをつくり出すこともできた。また、異

国の木とブルーグリーンの色使いを組み合わせることで、遊びや落ち着きを同時にもたらす効果が生まれた。

「あのホテルの一室のすべてが、世界中のこんなにも多くの人々に愛されてきたのには理由があります。それはあの部屋がとても美しく唯一無二だからです。もう606号室は予約できないので、あの空間に住む機会がなくなってしまいました。でも私たちはこの家のリビングにあの空間を再現したので、それが可能になったのです。この部屋はスタイルの表現が飛び抜けているため、私たちはアパートのほかの部分の表現を合わせるよう努めました。結局、私は人が笑いながら、『彼は何かがおかしい』と思うような環境を作りたかったのですが、それには成功したと思います。だって人が訪れたときに、この部屋はいつも笑いや驚きというリアクションをもたらしてくれますからね」Patricはこう語り、自身のスタイルを無限だと表現する。

このカップルは子供をもたないと決めていて、アパートは彼らと彼らの生活のためだけに作られた。

彼はこんな風に言っている。

「一体どんな子育て中の家族が、カーペット張りのリビングや60年もののオリジナルカバーのデザイン家具と暮らそうなどと思いますか?」



本とクラシックデザインの中に、Patricは第二の故郷であるStockholmのレストランRicheの額装されたメニュー表でユーモラスな要素を作った。このメニュー表と同じで、Patricは本もその場所に住む人間について多くを語ると考える。そういうわけで、彼は膨大な本のコレクションを築き上げた。フロアランプ Lumina DaphineはBlocketで見つけた。PATRIC ÖHLUNDはモデルであり、素晴らしいデザインに情熱を傾けている人だ。プレイルームを彼らはオフィスと呼んでいて、そこはTVルームやゲストルームでもある。ふたりはインテリアに現代的な要素を取り入れ、それは彼らの並外れたリビングにも合う。Patricは色というものが苦手で、モノクロのグラフィックの中で生活してきた。だから今インテリアに色を取り入れる冒険はElisabethのためなのだ。デスクはBlocketで見つけ、テーブルランプTizioはRichard Sapperのデザイン。デスクの前にかかるのはMikael Janssonの4つのリトグラフ。Karl Erik Ekseliusがデザインした椅子は、スウェーデン国王と王妃のピアノルームにあるもの。Hans

J. Wegnerデザインのソファベッドは、lauritz.comで見つけた。コーヒーテーブルは、本来は1960年代の酒棚でPatricが捨てられていたのを持ち帰ってきた。


キッチンはスタイルすらもデザインされる。ローズウッド材張りの壁でまとめられ、Blocketで見つけたArneJacobsenデザインのテーブルに合う本物の空間を作る。Arne Jacobsenのアントチェアはデンマークのヴィンテージショップで見つけた。黒いセラミックの花瓶はCarl Harry Stålhaneのデザインで、花があってもなくても等しく美しい。Louis WeisdorfがデザインしたランプMulti-LiteはGubi社による復刻版。キッチンはアパートが出来た1960年当初のままをふたりは維持しているが、現代人の必需品である食洗機や新しいコンロ、換気扇のために棚と扉は移動させた。クラシックデザインは、このカップルのインテリアには必要不可欠で、Elisabethの1960年代製のデスクの上にあるのは 、オパールガラスとマットな黒いスタンドのPH 2/1限定盤。デスクもランプもBlocketで購入した。ユーモアも同じくインテリアには重要な要素なので、デザインされたラインのハズしとして、Kaws社の人形とB&B Italiaのキャンドルホルダーをふたつ置いた。





このカップルはArne Jacobsenの606号室を再現することに全力を注ぎ、その有名な部屋にあるものと似た作りつけの棚を設けるために、リビングを小さくしたのだ。彼らは自分たちの個性を織り混ぜつつも、1952年作Henri MatisseのBlue Nude、1958年にEero SaarinenがデザインしたPedestalシリーズのTulipテーブルのオリジナル、AchilleとPier GiacomoのCastiglioni兄弟が1962年にデザインしたクラシックなToioランプなど、依然として50年代や60年代のものに囲まれることを好む。それらはすべて lauritz. comとBlocketで見つけた一方で、絵になる

ようなSASモデルの航空機はTradera (フリマサイト)で見つけた。ARNE JACOBSENの部屋のように、作りつけの棚の中には展示品がある。PatricとElisabethの住まいでは、一番上の棚は Gunnar Nylundのガラス作品専用に、二段目にはCohr社の銀のコーヒーセット、その下がStig LindbergのセラミックDominoシリーズ、一番下にはGeorg Jensenのデザインがある。





ARNE JACOBSENにインスパイアされ、ふたりは木で寝室の壁を装飾することに決めた。入手困難なローズウッドに代わり、ふたりはポーランドの工場に注文し、彼らの寸法と部屋の設計図に合わせてつくってもらったマホガニー製のパネルが取り付けられた。彼らは職人を雇い、ベッドの高さが高く、ストックホルムの景色を眺めることができ、まるで浮いているようにも見える完璧な空間を作ってもらった。天井のランプEkliptaはArne Jacobsenデザインで、すでに生産されていないためlauritz.comで購入した。クローゼットはPatricがIKEAで購入し自作したもの。寝室に入るためには、このクローゼットを通る必要がある。素敵な隠れ家へと続く秘密の通路のように、という発想だ。感覚的な機能も考えられており、明るく開けた寝室に入った瞬間に光に圧倒されるため、より暗くて狭い場所を通り抜けるのだ。ウォールランプはArne Jacobsenのデザインで、このアパートでは数少ない、新品のうちのひとつ。ベッドサイドテーブルの上にはOveroseのアロマキャンドルValkiriaと真鍮のお香立て。このベッドサイドテーブルは職人が作ったもので、瓶のランプはMaison Margielaのもの。真鍮のキャンド

ルホルダーと1960年代のビンテージの目覚まし時計は、蚤の市で購入。ふたりはこの2つのアイテムが1960年代のデンマークのスタイルを表すベッドの印象と合っていると思っている。オレンジのタバコ瓶はセラミック製で、嗅ぎタバコ用のものだ。




<BO BEDRE 2020年9月号ページ102>

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